勉強をする時に大事なのは集中力です。でも長い時間集中力を持って勉強するのは実は大変難しいことなのです。どんな人でも、どんな事をするにしても、集中力を切らさないで何かを最後までやり抜くのは無理だと思います。自分が好きなこと、例えば、大好きなバンドの演奏や映画を観たりしている時はかなり集中して、まさに夢中になって、全身全霊を傾けて没頭してもあまり疲れは感じません。あるいは仲のいい友達と何時間でもおしゃべりを続ける至福の時には時の流れはあっという間で、もっと!と心の中で叫んでいます。
でも勉強となるとそう簡単にはいきません。先ず、勉強を始めることを先延ばしにします。何人もの学者たちが<やる気>なんてものは探してもどこにもない、と言っています。あまり考えずに、勉強の世界に入ってしまえば脳は興奮してきて、やる気が出てくる。勉強の世界に入るから、後から<やる気>が出て来るのだと。でもこの<やる気>はどのくらい持続できるものでしょうか?
持続時間は40分?
以前自宅近くで大規模工事がありました。スクラップ&ビルドで、広大な敷地に建っている古い建物を壊して、そこに新しい建物を建てるという計画で、実に2年にわたって工事が続くことになりました。このような大きな工事の場合、法律で施工者は近隣住民に説明会を開かなければなりません。月1回1年近く説明会が開かれ、多くの近隣住民が出席しました。今後日曜日を除いて、毎日朝9時から夕方5時過ぎまで、大変な騒音・振動が予想されるからです。
長いこと教壇に立ってきた私は、学生時代の集団授業に出席していた時、どのくらい緊張感を持って授業に集中できていたのか、すっかり忘れていました。自分が話をする側から、話を聞く側になった時、施工側から出席している4、5人の人たちからの質疑応答を含めた、1時間半くらいの説明会をどのくらい集中力を持って聞けるのだろうと、ある時から数回時計で計ってみました。するとどの回も判で押したように40分で飽きてきました。これからの日常生活に大きな影響をあたえる工事なのだから、しっかり話を聞いて、疑問点はして質問しなければと思っていても、40分経つと「家に帰りたい、帰ってのんびりしたい」という気持ちが湧いて来るのでした。
多人数の授業
教壇に立って授業を進める時には、英語を教えたい、英語を理解してほしいという気持ちから、私の脳は興奮しています。いくらでも話せます。でも、集団で授業を聞いてくれている学生さんたちはどうでしょうか?学生さんたちの集中力は40分も持たないでしょう。眠くなったり、こっそりスマホを見たり、つまり、多人数の教室での授業で教師の話を聞くことはかなりの忍耐力を必要とすることなのです。
以前学生が多く乗っているバスの中で二人の男子学生が私の隣に立っていました。
「俺あの授業もう落とすよ。」
「エェッ?」
「だいたい先生がさー ..... イケねぇー、イケねぇー!俺あの授業1回も出たことなかったんだ!」
と、笑い話のような会話を耳にしたことがあります。もし授業を受けていて、単位を落としそうな心配があったならば、「だいたい先生がさー ... 」に続くのは多分「教えるのが下手/話がつまらない。だから授業を落とすことになってしまいそうだ。」というセリフが続いたことでしょう。
学生さんたちの気持ちをいかに授業に惹きつけ、学問の世界へと導いていくかは、教える側にとっては昔から難しい問題でした。ここ数年は授業への積極的参加という観点から、ペアやグループで問題を解いたり、ディスカッションを授業の一部に取り入れるのが普通になってきています。それでもグループの中で積極的に発言できない人やおしゃべりをしてしまう人、全く活動に参加できない人などが出てきてしまいます。通常授業のやり方を一部変えて、聞くだけではない授業をということなのですが、全員が納得できるような授業は有り得ません。
話す方はいいのです。話すことで脳は興奮してきて、いくらでも話せます。一方、聞く方は相手ばかりが話すのを聞く方なので、すぐ飽きます。本を読んでいたり、YouTube を射て、つまらなければすぐそれを遮断すればいいのですが、授業ではそうもいきません。教師も工夫をして、話が少し飽きられているなと察知したら、少し話題を変えて気分転換をしてもらい、また授業に戻るという工夫が欠かせません。
ティータイム・ブレイク
家庭教師だと、生徒さんは元々英語力を向上させたいと思って来てくださるので、集中力が途切れるということはまず考えられません。問題を解いたり、間違った箇所の説明を聞いたり、疑問点を質問したりと、2時間の中でやることはいっぱいあるからです。それでも知らない内に脳は疲れてきますから、1時間半を過ぎた頃合いを見計らって、煎茶(我が家ではコーヒーとか紅茶はほとんど置いていません。)とお茶菓子をお出しします。いわば長距離ランニングで少し息継ぎをして欲しいからです。あとはレッスン終了まで一気にラストスパートをかけます。生徒さんの方はその煎茶(5月頃は新茶)をまるで英知の飲み物のように一口二口飲んで下さる方もいて、とっても嬉しい瞬間です。